体で覚える経営と戦略

再建屋が考える経営と戦略の論理と実態。元外資コンサル

中小企業に贈る、新規参入市場の選択

 

自らコンサルティング会社を経営していた時代から既存事業はキャッシュをある程度生んでいるが成熟した日本市場の中では大きな成長を見込めず、社員の年齢も高いためインターネットなどの新たな産業へ既存アセットを活かしても踏み込めない、という会社を大量に見てきました。

そのときに行き着く課題は「結局、どこにいけばいいのかわからず、ある人脈の中から様々な事業に手を付けたのは良いが明確な成長ストーリーが書けていないし、成長させられる人材もいない」というものです。

社長(特に一代で作ったオーナー企業の場合)は非常に大きなパワーを持ち、新規事業も作れるが新しいテクノロジーには疎い、そして新規以外にも山ほどやることはある。既存事業が安定したキャッシュを生んでいるため、そちらにどうしてもリソースはさかれがちになります。

 

さて、そのとき新規参入は多くの場合、求められている・勝てる市場ではなく「とりあえず簡単にやれる」市場から参入しているきらいがあります。既存プレイヤーがひしめく中、参入していくため市場性の見極めと競争環境、自社の優位性を設計することなく参入すると惨めな失敗が多くの場合待っています。

その際の市場選択の基準は下記三点かと思います。

 

  1. 成長余地がある市場規模
  2. 成長率がマイナスではない(もしくは縮小・均衡の中で新規性で新しい市場を作れる)
  3. 自社の強みが活きる

 

1.についてはいわずもがなですが、数十億円の市場規模で安定した事業を作ることは難しいです。ニッチプレイヤーだとしても最低300億円程度の市場規模は欲しいところ。ちなみにですね、数十億円でも年間20%のような高成長が見込める領域であれば先行投資的に貼るのはありですが、資金体力が必要になります。2014年12月に上場したクラウドワークスなどが良い例でしょう。高成長であるクラウドソーシング市場にランサーズとともに先に貼り、赤字ながら資金調達を続け売上の成長を続け上場。売上は5億円かつ赤字とここだけみると上場失格ですが、高成長を見込み上場が可能となっています。

ちなみにですね、上場判断は証券取引所と証券会社が主に関係することとなりますが、証券会社のスクリーニングは会社によって相当違うようです。一番厳しいのが野村証券、次に大和、そしてゆるゆるとウワサのSBIが続きます。上場後の株価推移を見るとその上場および初値の株価が妥当であったかどうかがわかるわけですね。

 

2.市場成長率について、マイナス市場で既存のビジネスモデルで、というのはほぼ確実に上手く行きません。マイナス成長というのは既に大手が存在する中でその大手でさえもNo1以外は案件獲得に苦しみ、小さなプレイヤーは淘汰されているという意味です。そこに小さなプレイヤーかつ業界知識・顧客基盤もないなか参入というのはないですよね。私が起業した際にも一度これをやってしまい大変苦しんだ後に利益は全く産めず解散という痛い経験をしました。業界地図や市場レポート(国内であれば矢野経済、富士経済)などを見て学びましょう。

意外とチャンスがあるのが市場が横ばいでかつ既存プレイヤーはぬくぬくと生活している市場です。横ばいであるアルバイト市場に成果課金という既存プレイヤーが出来ないスタイルで殴り込み高成長を遂げたリブセンスはこのモデルと言えるでしょう(掲載課金である既存プレイヤーが成果課金にしては既存売上の多くを失うためこのスタイルはとれないというわけです、いわゆるイノベーションのジレンマですね)。

 

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

 

 市場性についてさらに勉強したい人は絶対に!マイケル・ポーターによる名著中の名著である競争戦略の原理を読みましょう。新規参入の脅威、顧客・サプライヤーからのプライスプレッシャー・・・ここらのキーワードを抑えないと市場がいつまで成長するか、注意すべきプレイヤーは誰か、ここあたりは読めません。逆に競争戦略の原理中で説明される「ファイブフォース」のフレームワークを使いこなせることは市場性を見極める上では大きなアドバンテージとなります。

 

競争の戦略

競争の戦略

 

 

3.さて、「強み」についてですが、ほとんどの企業は他の市場で活かせる強みはなにか?など聞いても明確な答えは返ってこないものです。これは中小企業のみならず大企業でも同じです。既存市場内で自社と競合を比べることは出来るが新規参入した際に強みはなにか?というのは実はその市場をよく知り、KSF(key success factor)が何か、自社はそれを持っているか=強み、という判断をしないかぎりよくわからない、曖昧なものになります。そこで一般には語れませんが強みの種類は大きく3つに大別されます。

 

1.業界・顧客に強い

業界知識、顧客基盤などがこれに当たります。要は既存顧客に新規商材売る、というのはここですね。中小企業では2.機能に強いよりもこちらを強みにすることがお勧めな場合が多いですね。技術では大手が上、もしくは持っている強みだと思っていたことは大した強みではないからです。大手が構築したプラットフォーム上で少し事業を出来る、では完全な新規市場に行った際の明確な強みにはならないですね。

リンクアンドモチベーションは人事コンサルからスタートしてますが現在では採用、派遣まで行っています。顧客は共通、商材は別というのがこの例ですね。

 

2.機能に強い

例えば、システム系のITに強かったプレイヤーがコンシューマー系のECに進出など(失敗も多いですが)、既存の技術という若干の「強み」を活かして他市場に参入。

失敗例の多くは自社が大した強みでもないことに異常なプライドを持っている場合が多くあります。例えばスマホゲームが作れます、程度のことを強み、と思ってしまうなどですね。普通の人にとっては障壁は高いが派遣でも出来る、学生でも出来るレベルだったりするので明確な強みとはいいづらいです。

富士フィルムなどは美しい代表例ですね。リクルートもリボンモデルをあらゆる業種に当てはめるという点はこの2に当たります。

 

3.オペレーションに強い

 

トヨタ(カイゼン)、Danaher、PEファンドなどが多く持っているのがこの三番目でしょうか。特に私の個人的なお気に入り企業Danaherについて述べますがアメリカの企業でDanaher Business System(DBS)という中2病的なシステムで買収企業を改善していくというのが基本的なモデルです。この企業が秀逸なのは二点で

市場の見極めスキルが芸術的)

買収した企業がいる市場は将来高成長、もしくはコンソリデーション(競争が成熟し大手数社に収斂されている状態)が終わり利益を享受するステージに入ろうかという企業を他社が見つけにくいBtoBの世界で買収を繰り返すことができている点です。

買収というのは相手がいる世界なので戦略的に行なうことは非常に難しい、多くの場合は来た案件をどうするか判断することになりますが、Danaherはどうソーシングと見極めを進めているのか気になるくらい芸術的にこれが出来ています。

バリューアップに再現性がある)

買収ターゲットが明確にあり、それを買収したら確実にDBSでバリューアップしてきます。経営者のカリスマ性に依存しないシステマチックなバリューアップというのはPEファンドと同等以上のスキルを内部に持っているということですね。実に素晴らしく尊敬する企業です。

 

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画像引用元:Danaher

 

 

さて、いかがでしょうか。新規市場コンテストなどを内部で行っている会社も多いかと思いますが、そもそもどの市場で戦うのか、という問いに答えるときの基準にご参考になれば幸いです。